コーチングの承認とは?部下のやる気アップや信頼関係の構築に効果的!
コーチングの承認スキルを使うことで、人間関係を良好なものにし、周りのモチベーションを高めることができます。実は、一般的にイメージする「承認(相手を認める)」では、逆効果になってしまうことも・・・
この記事では、次のような内容をお伝えしています。
- コーチングにおける承認とはどのようなものか?
- 承認の効果、メリット
- うまく承認するためのポイント
承認において大事なことを理解して、これを読んだ後すぐに使える具体的な方法を知ることができます。
承認とは?
コーチングにおける承認は、相手をありのまま認めるスキルです。これは評価ではありません。根本的には相手の存在を認め、その上で行動や結果を認めることです。それにより、安心感や信頼感を与えることが目的です。
一般的に「承認(相手を認める)」とは、相手の能力や考え方、行動の良さを肯定的に評価するものだと思います。つまり、良い評価を与えることです。この良い評価を人に伝えると、「褒める」行為になります。だから、「認める」は「褒める」ことと捉える人もいるでしょう。しかし逆に言えば、結果を褒めることは、成果を出すことができなければ悪い評価を与えられることを意味しています。
アドラー心理学における「信用」と「信頼」の違いが、「コーチングにおける承認」と「一般的な承認(褒めること)」の違いを示しています。
評価を与えることは、あくまで信用です。「成果を出せば認められる」と短期的にモチベーションが上がることはあるでしょうが、失敗に対して「成果を出せないと見放される」といった不安を抱くことにもつながります。すると、失敗を避けることを意識しすぎて縮こまってしまったり、結局はモチベーションが下がったりすることになります。
最も根本的な承認は、仕事ができるかどうか、成果を出しているかどうかは関係ありません。ただ、相手がそこにいることを認めるだけです。認めることは、「自分を信じてくれている」「なにかあっても力になってもらえる」という安心感や信頼感を生み出します。心理的安全性を手に入れることができるため、相手が本来持っている能力を発揮することに役立ちます。
承認 | (結果を)褒める | |
伝え方 | 受け止めていることを伝える | 主観を伝える |
認め方 | 存在を認める | 結果を評価する |
信頼と信用 | 信頼(無条件で信じる) | 信用(条件付きで信じる) |
目的 | 安心感・信頼感を与える | モチベーションアップ |
承認の構成要素
承認に慣れていない人は、認めることができる対象をほとんど知りません。結果を認めるか、せいぜい行動を認めることくらいでしょう。
だからこそ、どんなことを認めればいいのかを知ることで、場面に応じた効果的な承認を行うことができるようになります。
存在を認める(存在承認)
最も根底にある承認です。相手の存在そのものを認めること。このように書くと難しく聞こえますが、誰もが当たり前に行っている相手がそこにいることを認めることです。
存在を認めるアクションは、
- 名前を呼ぶ
- 「◯◯さん、~~」
- あいさつをする
- 「おはようございます」「お疲れ様」「調子はどうですか?」
- 相手の変化に気づく
- 「うれしそうですね」「髪切りました?」
- プライベートな話をする
- 「休日は、なにをしていました?」「この前、おいしいラーメンを食べたんですが…」
- 相手の話を覚えておく
- 「◯◯さん、誕生日もうすぐですよね」「この前◯◯さんが言っていた~~買いましたよ!」
- お礼を言う、感謝をする
- 目を見て話す
- 約束を守る
他にも、次のような行動によって、上司が部下を認めていることを示すことができます。
- 相談をする
- 仕事を任せる、役割(ポジション)を与える
- 人に紹介する
感情を認める(感情承認)
相手の感情を、そのまま受け止めて認めることです。
たとえば部下がトラブルに対応するとき、「早く対応することが大事だろ」と伝えるのは、正論かもしれませんが、部下は余計にイライラすることでしょう。トラブルに対する疲れやイライラが無視されているからです。感情を認めることは、部下がイライラしている感情を、否定も肯定もせず「そのように感じているんだ」とただ受け入れるだけです。
ハーバードの教授と心理学者が行った35年間のマネジメントの研究をまとめた『マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』では次のように語られています。
感情はインナーワークライフを構成する三大要素のひとつであるため、自分の感情が正当なものだと認められたとき、人はより仕事仲間とつながっているという感覚を抱く。
(中略)
マネジャーは人の悲しみやフラストレーション(そして喜び)を素直に受け止めるだけでも、ネガティブな感情を軽減させポジティブな感情を増幅させるのに大きく貢献することができる。
マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力
感情を認める具体的なアクションとしては、バックトラッキング(オウム返し)と呼ばれる方法があります。
バックトラッキングは、相手の言葉を言った通りに返すことです。特に、感情を表す言葉を返すとよいでしょう。
成長したことを認める(成長承認)
他者との比較や結果ではなく、相手がどれだけ成長したかを認めることです。大きな成果を待つ必要はありません。ちょっとした成長でも認めるとよいでしょう。
自分に対しても他人に対しても、人と比べてしまうことはよくあることです。それが悪いこととは言えませんが、他人との比較は必ずしも良い結果を生むとは限りません。特に、他人に比べられるのは自尊心を傷つけることにつながりやすいです。
成長を認めてもらうことで
- 自分のことをよく見てくれている、気にかけてくれていると感じられる
- 少しでも成長している、前に進んでいると感じられる
『マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』では、最良の日々に書かれた日記では、76%もの頻度で進捗したことについて書かれていたそうです。この本では、メンバーの生産性や創造性を高める最も重要な要素こそ、「進捗」(前進感)だとしています。
成長を認めることによって、相手は前進している感覚を得ることができます。
相手が前身した点や、小さな成長、変化していることを伝えるとよいでしょう。
行動を認める(行動承認)
相手の普段の行いや取り組み方などの、行動を認めることです。行動を見直してもらいたい場合もあると思いますが、承認の前提としては事実をそのまま伝えることからはじめます。
たとえば、
「いつも早めに来て、準備を整えていますね」
「今週は、5記事アップしましたね」
「資料を作るのに、◯◯件リサーチして準備しているんだね」
改善してほしいところがあるのに、認めることができないと思うでしょうか?
そう思うとしたら、承認とフィードバックを分けて考えてみてください。どんなに改善してほしいと望んでいる状況だとしても、認められる部分は必ずあります。完璧、問題ないから認めるのではなく、事実を認めることからはじめてください。
結果を認める(結果承認)
相手の行動の結果を認めることです。
「契約が先月より2件増えましたね」
「先月よりも記事の作成ペースが3件分落ちているね」
行動と同様に、結果の改善を求めたいこともあるでしょう。この場合にも、事実を認めることからはじめてください。その上で、相手を理解して、成果を伸ばせるように働きかけることです。
承認の効果、メリット
信頼を深める
「尊重してくれている」「認めてくれている」
こうした安心感や信頼感が生まれると、相手は心を開いてくれます。心を開かない限り、本音で話してはくれませんし、コーチングが機能することもありません。
信頼が深まることで、コミュニケーションが円滑になり、居心地もよくなります。ビジネスでも注目されている「心理的安全性」を築くことにもなるため、チームとしての生産性を高めることにもつながります。
モチベーションを高める
具体的に認めることで、やる気を高めるのに役立ちます。
承認は、「評価されたい」「認められたい」といった外発的動機づけをもたらします。ただし、外発的動機づけは、短期的な効果になりやすく主体性や創造性を損ねてしまうことがあります。
適切な承認は、相手が本来持っている内発的動機づけを引き出すのに役立ちます。頑張りや工夫は、結果だけで見えるものではありません。細かな配慮やこだわりなどは、内発的なモチベーションから生まれてきます。こうした頑張りを認めることで、本来持っているモチベーションを邪魔しないことに役立ちます。
体験談
学生時代に、個人経営の居酒屋でバイトしていたときのことです。
年末の忙しい時期に働き始めたこともあり、ほとんど皿洗い。一番忙しい時期なので、周りもそこまで丁寧に教えている余裕がなく、「とにかく頑張れ」「もっと頑張れ」な状態でした。不慣れなこともあり、タイミングによってはどんどん洗い物が溜まっていきます。正直、疲れ果てて、「最初のバイト代もらったら、もう辞めようかな」と考えていました。
しかし、年明けの営業のあるときに、「すごい頑張っていたよ」「大変だったと思うけど、助かった」と言ってもらえました。頑張りを認めてもらえたと感じられて、「もう少し働くか」と思い直しました。
それからは仕事に慣れたこともあり、お客さんに喜んでもらえる楽しさもあり、やりがいを持って働くことができました。
単純かもしれませんが、ちょっとした一言で、モチベーションやそこで働こうと思う気持ちがこんなにも変わるんだなと思った出来事です。
承認するときのポイント
3つのメッセージを使い分ける
同じような表現だとしても、主語を誰にするかによって印象や伝わり方は異なります。
YOUメッセージ
相手を主語にしたメッセージです。「あなたは~」ではじまります。
Youメッセージで承認のは、あまりオススメできません。というのも、あなたを主語にすると、言われた方は評価されていると感じたり、批判されていると感じたりする場面が多くなるからです。
「(あなたは、)もっと準備しないと商談がまとまりませんよ」
「(君は)◯◯な人だね」
また、相手を褒める言葉だとしても、評価されている感や相手の気持ちとのズレが生じることがあります。
「(あなたは)いつも成果を出していて、すごいですね!」
特に問題ないように思えるかもしれませんが、相手がまだ十分ではないと感じていると、承認の言葉を素直に受け取ってもらえないことがあります。あるいは、あくまで結果だけ認められて、努力を認めてもらえていないように感じるかもしれません。この場合には、承認の効果はなくなってしまうでしょう。
Iメッセージ
自分を主語にするメッセージです。「私は~」ではじまります。
自分を主語にすることで、あくまでも自分の考えや感じたことだと伝えることになります。事実を伝えるとしても、自分にしか見えていないことも、相手だけがわかっていることもあります。Iメッセージは、決めつけや評価ではなく、一つの見方として受け取りやすくなります。
たとえば、
<YOUメッセージの場合>
「(あなたは)元気がなさそうですね」
<Iメッセージの場合>
「(私には)元気がなさそうに見えます」
WEメッセージ
主語を私たち(チーム、組織など)にするメッセージです。
私もそう思っているし、他のメンバーも同じように思っていると伝えることができます。そのため、関わる様々な人から認められていると感じてもらうことができます。
たとえば、
「メンバーみんな、◯◯さんのサポートに助けられたと言っているよ」
「他の先輩たちも、仕事が早いと言っていたよ」
WEメッセージは、Iメッセージに比べて強力になりますし、他の人も巻き込んだメッセージとなっています。そのため、使い方には注意が必要です。
ネガティブなフィードバックをするときに使ってしまうと、ネガティブな印象の度合いはより大きくなってしまいます。また、他の人がどう思っているかは知らないのにWEメッセージを使って違う意見を聞いてしまうと、適当なことを言っていると信頼を損ねることになりかねません。
WEメッセージは注意して使いましょう。
事実を伝える
承認はありのまま認めるスキルだとお伝えしました。そのためには、客観的な事実を伝えることがポイントです。
「仕事ができますね!」「才能がありますね!」といった褒め言葉は、本心だとしても主観的な言葉です。お世辞と受け取られることや、相手の心の内では「そんなことはないんだよな」と受け止めてもらえないこともあり得ます。
一方で、「お願いしていた仕事をもう終えてくれたんですね」「◯◯についてリサーチしたんですね」といった事実を伝える場合には、相手もその事実を認めることになります。結果として、相手は自分で自分を認めることにつながります。
相手をよく観察する
「自分のことをよく見てくれている」と感じると、尊重されていると感じるものです。そのためには、普段から相手の行動や表情をよく見ていることが欠かせません。「すごい!」と言うことは簡単ですが、それでは認められているとはなかなか思えないでしょう。
「資料の細かいブラッシュアップがされていて、さらに良くなっていた」
「プレゼンの◯◯が特によかった。~~が印象に残った」
相手の心に響く承認の言葉を投げかけるには、具体的に伝えることが大切です。具体的に伝えるために、5W1Hや数字を使うことを意識するとよいでしょう。
まとめ
コーチングの承認スキルを日常的に活用すれば、周囲との信頼関係を深めて、モチベーションを高める助けになります。
そのためには、まず相手をよく観察すること。そして、事実を伝えることです。ちょっとしたことでもいいので、承認する言葉や行動を取ってみてください。