アサーティブコミュニケーションとは?その効果から実践方法、重要なポイントを解説
「自分のことをうまく伝えられない」
「すぐにカッとなってしまう」
「社内でコミュニケーションの取りにくい人がいて、悩んでいる…」
アサーティブコミュニケーションは、こうした悩みを解消するのに役立ちます!
この記事では、次のことを学べます。
- アサーティブコミュニケーションとはなにか?どんな意味か?
- どんなメリット・効果があるのか?
- 自然と行えるようになる4つのポイント
- すぐに実践できる4段階のフレームワーク
- コミュニケーション力は性格次第?
コミュニケーションの苦手を解消し、人間関係を良好にするアサーティブコミュニケーションについて、ぜひ学んでください!
アサーティブコミュニケーショとは?
アサーティブコミュニケーションとは、一方的に自己主張するのではなく相手の考えを尊重しながら自分の意見や要望を伝えるコミュニケーション方法のひとつです。
アサーティブ(assertive)という言葉には”積極的な”という意味がありますが、自分の主張を積極的に伝えるだけではなく、相手も尊重するコミュニケーション技術です。
アサーティブコミュニケーションの起源
心理学者アンドリュー・ソルターがアサーティブコミュニケーションの創始者だと考えられています。ただし、彼はアサーティブという言葉を使ってはいません。1949年に発刊された著書『条件反射療法』に、アサーティブネス技法を用いた多くの事例研究が記載されており、後のアサーティブコミュニケーションの元になっていきました。
南アフリカ生まれのアメリカの心理学者ジョセフ・ウォルプなどによって深められていきました。
元は恐怖症や不安症を克服する行動療法のアプローチとして磨かれてきたものが、現代では様々な年齢・文化・考え方の人たちとも適切なコミュニケーションを取るための技術としても活用されるようになってきました。
4つの自己表現のスタイル
ビジネスシーンでは、さまざまな方法で自己主張を行いますが、具体的には以下の3つの自己主張スタイルがあると言われています。
- 攻撃的なスタイル(アグレッシブ)
- 受け身的なスタイル(パッシブ)
- 作為的なスタイル
- アサーティブ
攻撃的なスタイル(アグレッシブ)
一方的に自分の主張を押し通そうとするタイプです。自分の気持ちや考えが最優先なため、他者の気持ちや考えを聞き入れることが少ないです。自分の主張が受け入れられないと感情的になりやすいです。
そのため、他人を萎縮させたり受け身な姿勢にさせたり、他人から警戒されたりと良好な関係を築くことが難しくなります。パワハラなどにもつながりやすいので、注意が必要です。本人も不機嫌になりやすく、周りにもストレスを与えるスタイルです。
受け身的なスタイル(パッシブ)
他人を優先したり、周りを気にし過ぎたりする自己主張を避けるタイプです。言い争いや対立を避ける、相手の気持ちを優先する、頼み事を断れない、周りの評価や反応を過度に気にするなどの理由から、自分の気持ちが考えを伝えることを避けています。
主張が苦手なだけなので、ストレスや不満を溜め込みやすいです。なにかのきっかけにストレスを爆発させてしまったり、無理なお願いを請け負ったりするなど、本人の心身に問題が起きる可能性があります。
作為的なスタイル
直接的に自分の気持ちや考えを伝えるのではなく、遠回しに表現するタイプです。周りに気を遣わせる、直接言わずに気付くように仕向けるなど、周囲は面倒に感じるでしょう。直接的なトラブルにはなりにくいですし、本人も気を遣ってもらってよく思うかもしれませんが、気づかないところで信頼を損なうことになります。
アサーティブ
自分も相手も尊重する方法です。自分の気持ちや考えは、きちんと伝えます。同時に、相手の気持ちが考え、立場などもしっかりと聞きます。その上で、お互いに納得できる結論を出すための、建設的なコミュニケーションを取ることができます。
アサーティブコミュニケーションの4つの柱
アサーティブコミュニケーションには根っことなる考え方があります。それが、アサーティブの4つの柱です。どんなに優れたスキルを持っていたとしても、相手を見下すような心持ちは相手に伝わり、良い関係を築くことはできません。4つの柱を心がけることで、自然とアサーティブなコミュニケーションとなっていくものです。
- 率直
- 対等
- 誠実
- 自己責任
それぞれの柱の具体的な内容について、以下で詳しく解説します。
アサーティブコミュニケーションの柱①:率直
アサーティブコミュニケーションでは、自分の考えや主張を隠さずに相手に伝えることが大切です。
自分の気持ちを率直に伝えずに第三者目線からの意見や遠回しな表現を使用してコミュニケーションを取ってしまうと、自己主張が相手に伝わりにくくなってしまいます。
アサーティブコミュニケーションの柱②:対等
アサーティブコミュニケーションでは、相手と対等にコミュニケーションを取ることが基本です。
自分が萎縮したり気持ちを隠したりして対等なコミュニケーションが取れないことはもちろん、相手が自己主張できないように高圧的な態度を取ることは、正しいアサーティブコミュニケーションとは言えません。
アサーティブコミュニケーションの柱③:誠実
アサーティブコミュニケーションは、相手にも自分にも嘘をつかない誠実なコミュニケーションが大切です。
相手に嘘を付かないことはもちろんのこと、自己主張をするときは自分の気持ちに嘘がないかどうかを確認し、嘘偽りのない誠実な情報だけでコミュニケーションを取ること大切です。
アサーティブコミュニケーションの柱④:自己責任
アサーティブコミュニケーションでは自分の主張に責任を持つことも大切です。
コミュニケーションを取った相手に責任を押し付ける行動は対等なコミュニケーションとは言えないため、自己主張をしたときに発言に責任を持つことはもちろん、自己主張できなかった場合でも発言できなかった自分に責任があると考えることも大切になります。
なぜアサーティブコミュニケーションが注目されているのか?
個人にとっての理由
2018年に発表された株式会社JTBコミュニケーションデザインによる18歳以上の男女を対象とした調査では、全体の57.6%の人が「コミュニケーションが苦手、やや苦手」と回答しています。特に、「初めて会う人と話すこと」、「自分の意見を口に出して話すこと」、「文章を書くこと」、「自分と世代・境遇が違う人と話すこと」などに苦手意識を持っているようです。
また、2014年に掲載されたマイナビの調査では、72.4%の人がコミュニケーションに苦手意識があると回答しています(R)。
特に日本人は、自己主張が苦手だと言われます。自分がどう思われるか問題にならないかといった損得もありますが、相手を傷つけてしまわないかなど相手の気持ちを思いやる人が多くいるからです。技術の進歩や在宅ワークの広がりによって、直接顔を合わせる以外のコミュニケーションも増えてきました。それでも、社会でコミュニケーションが重視されている状況は変わっていません。
こうした要因からコミュニケーションに苦手意識を持つ人が多くいるからこそ、お互いに心地よくコミュニケーションを取ることができる能力が注目されています。
企業・組織にとっての理由
ハラスメント対策のため
パワハラやセクハラに対する問題意識は高まり、2022年4月から中小企業に対する「職場のパワーハラスメント防止措置」が義務化されました。こうした流れの中で、ハラスメントになりうる行為を防ぐのに、アサーティブコミュニケーションが効果を発揮すると考えられているためです。
厚生労働省委託事業として開設されたハラスメント対策のポータルサイト「あかるい職場応援談」でも、アサーティブコミュニケーションが紹介されています。(参考:言い方ひとつで変わる会話術)
働きやすい職場環境を整えることで、人材に関する課題を解決するため
少子高齢化や転職・独立の一般化など、多くの企業で人材不足や離職率の増加といった課題を抱えています。退職理由の上位には、必ずといっていいほど「職場の人間関係が悪かった」が挙がります。優れた人材を採用し、定着してもらう上で、良好な人間関係やコミュニケーションは欠かせない要因と言えるでしょう。その方法として、アサーティブコミュニケーションを活用することができます。
働き方や価値観が多様化しているため
VUCAの時代と言われ、在宅ワークの広がりや副業解禁など、働き方や仕事に対する価値観も大きく変化してきています。世代による常識や考え方の違いも大きく感じられるでしょう。同世代だとしても、現代では触れてきた情報や経験の違いが大きくなっています。外国人と働くことも増えてきています。つまり、自分の常識や当たり前が通じない人とも、コミュニケーションを取ることになります。そうした場面において、自分も相手も尊重するコミュニケーションは、重要なスキルだと言えます。
アサーティブコミュニケーションのメリット
お互いの立場に関係なく、良好な人間関係を構築できる
上司と部下の関係では、立場の上下が分かれてしまうことはよくあります。そのため、上司の言葉は一方的な命令や押しつけになってしまうことも。部下の方も、本心を伝えられずに飲み込んでしまうこともあるでしょう。これでは、良好な関係を築くことは難しいでしょう。
お互いの意見を尊重できるようになることで、上司は部下の本音を理解し、成長をサポートできます。部下も自分の気持ちや考えを伝えるとともに、上司の考えを理解することができるようになります。
部署間・チーム毎の連携を高める
部署やチームのコミュニケーションが円滑でないことも、少なからずあると思います。自分の部署やチームの立場から他部署で優先してほしいことなどがあっても、その部署にとってはそうとは限らないことがよくあります。同じ案件・プロジェクトでも、部署やチームによって重要なことは当然違ってきます。
こうした違いを理解し、連携を高めるためにも、効果を発揮します。
生産性の向上
スムーズなコミュニケーションが取れないことによって、個人や組織のパフォーマンスが低下します。コミュニケーションの改善によって、こうした課題を解消するのに役立ちます。
また、VUCAの時代においては、これまで通用した方法やうまくいっていた施策が、急にうまくいかなくなることもあります。こうした状況で、新しいアイデアや施策を出していくためには、多種多様な意見が必要です。どのような立場からもアイデアや意見を受け付ける土壌が整っていれば、柔軟にアイデアを採用することができるでしょう。
こうした変化を促すことで、生産性の向上も期待できます。
離職率を低下させる
離職の原因の大きな原因の一つは、職場の人間関係にあります。特定の人との関係もあれば、職場やチーム内の人間関係が原因なこともあります。人間関係による離職を防ぐのに、良好な人間関係を築くことができるコミュニケーション技術は役立ちます。
ハラスメント予防
現代の上司やベテランの方は、「なにがパワハラになるかわからない」という不安を抱えています。中には、怒りっぽいアグレッシブスタイルの人もいますが、そうではない人の方が多いでしょう。しかし、パワハラがよくないと理解していても、思ってもいなかったことがパワハラに捉えられてしまうこともあります。
アサーティブなコミュニケーションを身につけることは、パワハラによる被害者を減らすことにも、不安な気持ちで部下と接する社員を減らすことにも役立つでしょう。
社員のストレスを軽減する
怒りっぽい人や感情的になりやすい人は、本人も周囲にもストレスを与えます。こうした人が、アサーティブなコミュニケーションを身につければ、ストレスを軽減することができるでしょう。
それだけではなく、自分の意見や気持ちをうまく伝えられないことで、ストレスを抱えている人にも効果があります。こうしたタイプは無理な指示や依頼も受けてしまうことがあるため、残業やプレッシャーなど心身に強い負担がかかることも。自分の考えを伝えられるようになることで、こうしたストレスを軽減することができます。
アサーティブコミュニケーションに役立つDESC法
「DESC法」は、シャロン・アンソニー・バウワーとゴードン・ハワード・バウアーによって提唱された自己主張の方法です。
「DECS法」は、4つの段階で自分の主張を伝えていきます。段階を踏むことで、自分の状況や考えを理解してもらいながら、相手と話すことができます。
- Describe(描写)
- Explain(説明)
- Specify(提案)
- Choose(選択)
DESC法①:Describe(描写する)
Describe(描写)は、相手の言動や状況を客観的に判断して事実のみを伝えます。
例えば、仕事の期日が守られなかった場合のコミュニケーションにおいて、「期日を1日遅れて仕事を完了させた」ということは事実ですが、「期日を遅れたからやる気がない」ということは事実ではありません。
このように、主観による推測や憶測、自身の感情をコミュニケーションに含めないことがポイントになります。
DESC法②:Explain(説明する)
Describe(描写)は、相手の言動や状況を客観的に判断して事実のみを伝えます。
例えば、仕事の期日が守られなかった場合のコミュニケーションにおいて、「期日を1日遅れて仕事を完了させた」ということは事実ですが、「期日を遅れたからやる気がない」ということは事実ではありません。
このように、主観による推測や憶測、自身の感情をコミュニケーションに含めないことがポイントになります。
DESC法③:Specify(提案する)
Specify(提案)は、具体的かつ現実的な内容で自分が相手に求めていることを伝えることです。相手が受け入れやすい表現を心がけるとよいでしょう。
例えば、期日を連絡せずに遅れた人に対して、「期日に遅れそうな場合は事前に連絡をください」というのは問題ありません。しかし、「トラブルがあっても期日だけは守ってください」という内容は無理な押しつけになってしまうでしょう。
このように、自分が求めている内容を具体的かつ現実的に伝えることが大切です。
DESC法④:Choose(選択する)
Choose(選択)は、自分の提案に対して相手がどのような選択・反応をするのかによって、自分も行動を選ぶことです。
③の提案に対して、「YES」で返答することもあれば、「NO」と返ってくることもあります。いい返事であれば、問題ありません。もし「NO」の返事が返ってきた場合には、代替案を提示したり、お互いの妥協案が見つかるような質問をしたりと、コミュニケーションを取ります。
相手のことを尊重してコミュニケーションを取っていた場合でも、自己主張の通りに進むとは限りません。複数の選択肢を用意することによって、お互いにメリットのある方法で仕事を進めるとよいでしょう。
性格ではなく、方法を変える
コミュニケーションは、元々の性格やセンスのようなもので決まると思う人もいるでしょう。しかし、そうではありません。ほとんどの人は、良い関係を築くためのコミュニケーションをきちんと学んでいません。経験的に学んできただけです。
コミュニケーションは身につけることができる技術です。どんな性格だとしても、自分のことを伝えて、相手と良好な関係を築くことができるのです。社交的か、内向的かは性格によるところがありますが、良好な人間関係は方法によって変えられるのです。
この考え方こそ、特に知ってもらいたい部分です。
まとめ
アサーティブコミュニケーションは円滑なコミュニケーションをするために必要な考え方で、コミュニケーション力が向上することで社内の雰囲気がよくなることや、社員のモチベーションが高くなる、生産性が高くなるなど、さまざまなメリットがあります。
コミュニケーション技術は、身につけることができます。
人間関係や生産性、離職率の改善に向けて活用してください。