傾聴とは?プロコーチがビジネスでの効果や具体的な方法を解説!
「話すことよりも、『聴く』ことが大事だ」
コミュニケーションに関心があれば、こうした話を聞いたことがあるでしょう。その聴くための方法が傾聴です。しかし、その方法は抽象的で、わかりにくいことがあります。
「耳だけではなく、心を傾けて聴くこと」
「しっかり相手の話に集中すること」
これではどのように実践すればよいのか、さっぱりです。
この記事では、
- 傾聴の概要、基本的な内容
- 傾聴のメリット
- 効果を発揮するための心構えやポイント
- 具体的にどのように身に着けて、実践したらいいのか
- ビジネスシーンにおける傾聴の事例
このような内容をプロコーチが具体的に解説していきますので、すぐにでも傾聴を実践し、傾聴力を高めることにつながります。
傾聴とは?
傾聴とは、相手の話を深く聴く技術です。自分の聞きたいことではなく、相手が話したいことや伝えたいことを受容的・共感的な態度で聴く方法です。
もしあなたが、上司に相談を持ちかけたとき上司がキーボードを打ちながらモニター画面をみて相槌を打たれたらどう思うでしょうか?次もこの上司の方に相談しようとはおそらく思わないでしょう。
反対に、目を合わせて静かに話を聞いてもらえたらどう感じるでしょうか?一生懸命聞いてくれる姿勢に、こちらも話す気持ちになりますよね。
元々は、カウンセリングやコーチングで使用されるコミュニケーションスキルです。いまではビジネスや日常生活においても傾聴力を発揮することによって、取引先との信頼関係を強化したり、上司と部下との間も信頼感を構築してより円滑に仕事をすることができます。
「聞く」と「聴く」の違いから傾聴の理解を深める
「聞く」と「聴く」の微妙な違いも、このことを表しています。
「聞く」というのは、自然と音が入ってくることを指します。どちらかというと、受動的な場面で使われます。
一方で、「聴く」というのは意識的に耳を傾ける場合に使います(ただし、「聞き耳を立てる」といった複合語などでは、積極的に聴く場合でも「聞く」ことを使うのが一般的)。
傾聴では、言葉通りに受け止めるのではなく、言葉の背後にある相手の本音・感情を理解するように努めるのです。
「理解」は非常に重要なポイントです。
スティーブン・コビーの著書『7つの習慣』においても「第五の習慣 理解してから理解される」として扱われています。デール・カーネギーの著書『人を動かす』でも、まずは理解を示すことが大事だと「人を動かす三原則」の一つとして語られています。
GHCDコーチングでも、その根底にある「理解-調和-創造-発展」サイクルのはじめにあるものは、やはり「理解」です。
傾聴は、相手を理解するために欠かせない技術です。
傾聴の目的
傾聴の目的は、安心感・信頼感を生み出すことです。
これらは、コミュニケーションやコーチングの土台となるからです。安心感・信頼感なしに、本当の気持ちを語ることはほとんどないでしょう。お互いの言い分を聞き入れることも少ないでしょう。
傾聴することで、コミュニケーションの土台を整えます。
ロジャーズの3原則
カウンセリングの基礎を築いた心理学者カール・ロジャーズは傾聴の「3つの原則」を提唱しました。これらの原則は、傾聴の本質を理解し、効果的に実践するための基盤となっています。
共感的理解 (empathy, empathic understanding)
相手の立場に立って、相手を理解・共感しようとすることです。
傾聴に限らずコミュニケーション技術は、効果を期待して行うことがほとんどでしょう。それ自体は当然のことではありますが、「相手に変わってほしい」「行動してほしい」といった期待から傾聴を行うと、相手の立場ではなく自分の立場で物事を捉えてしまいかねません。
傾聴をする際には、自分の経験や考え、価値観といったものはいったん置いておいて、まず相手を理解しようと努めることが大切です。
無条件の肯定的関心 (unconditional positive regard)
相手をありのまま受け入れて、好き嫌いや良い悪いといった評価をせずに聴くことです。相手の話を否定せずに、そのように考える理由や背景、具体的にはどういうことなのか、関心を持って聴くことです。
自己一致 (congruence)
傾聴する側が、心理的に安定して、裏表のない状態で素直に聴けることです。相手にオープンになってもらうために、自分もオープンな心構えをしておくことが大切です。他には、もしわからないことがあれば、正直に相手に確認して、わかったフリをしないことです。
傾聴における3段階の種類
傾聴の技術は一見シンプルに思えますが、実際には深い理解と実践が求められます。特に、傾聴の段階には3つの種類があり、それぞれ異なる目的と特徴が存在します。
受動的傾聴
受動的傾聴は相手の話すことに集中し、聴くスタイルです。受動的傾聴は、相手とのコミュニケーションを深める上で効果的ではなく、相手の感情や意図を理解しにくくすることがあります。
反映的傾聴
反映的傾聴は相手の言葉や感情を受け入れ、共感することで、その人の気持ちや考えを尊重する姿勢を示します。例えば相手の話に対して「わかるよ」という言葉だけでなく、うなずきなど態度で示すことです。
相手は聞いてもらえている安心感を持ちやすい一方、聞き手は受動的立場をとるため問題解決の場合には効果を発揮しにくい側面もあります。
積極的傾聴
積極的傾聴は、相手の話に対して積極的な関心を持ち、主体的に参加しながら理解しようとするコミュニケーションスタイルです。相手の話を尊重し、深いコミュニケーションを築くのに役立ちます。
積極的傾聴は、深い理解と共感を通じて、意味のあるコミュニケーションを構築するのに役立つ重要なスキルです。
傾聴の効果・メリット
信頼関係を築き、深められる
相手の話を真剣に聞くことで、相手は自分の考えや感情を受け入れてもらっていると感じることができます。このような経験を重ねることで、相手は自分を理解し、尊重してくれる存在としてあなたを認識するようになります。
近年重要だと考えられる「心理的安全性」を高めるのにも役立つでしょう。
信頼関係が築かれると、コミュニケーションがスムーズになり、相手も自分の考えや感情をオープンに表現するようになります。これにより、より深い人間関係を築くことができるのです。
相手への理解を深められる
傾聴は、単に相手の言葉を受け入れるだけでなく、その背後にある感情や意図を深く理解する手段となります。
人は言葉にできない思いや感情を持っていることが多く、傾聴することで、その隠れた部分を感じ取ることができます。
このような深い理解は、人間関係の質を向上させるだけでなく、ビジネスの場面でも大きなアドバンテージとなります。
相手の本当のニーズや要望を正確に把握することで、より適切な提案や対応が可能となり、双方の満足度を高めることができます。
話し手が整理できる
傾聴によって、話し手が自らの考えや感情を整理することができます。
人は話すことで、自分の中にある混乱した感情や考えを整理し、新しい気づきや解決策を見つけることができます。特に、相手が真摯に耳を傾けてくれることで、話し手は自分の考えを深め、より具体的な行動計画を立てることができるようになります。
傾聴する側は、アドバイスや解決策を提供するのではなく、話し手が自らの答えを見つける手助けをする役割を果たします。これにより、話し手は自分の力で問題を乗り越える力を育むことができるのです。
仕事がスムーズに進む
傾聴の力は、ビジネスの現場でも非常に価値があります。
相手の話をしっかりと聞くことで、その人の考えや意図を正確に理解することができます。これにより、誤解やコミュニケーションのミスを防ぐことができ、プロジェクトやタスクがスムーズに進行します。
また、傾聴をすることで、相手の隠れた悩みや提案を引き出すことができる場合もあります。これにより、より効果的な解決策を見つけ出すことができるのです。仕事の現場での傾聴は、チームの協力関係を強化し、全体の生産性を向上させる要因となります。
相手の気づき・変容を促すことができる
傾聴は、単に相手の話を聞くだけではなく、相手に自らの気づきや変容のきっかけを提供する強力なツールとなります。
人は自分の考えや感情を言葉にすることで、それに気づきや新たな視点を得ることが多いのです。傾聴することで、相手が自らの内面と向き合い、新しい気づきや解決策を見つけ出すサポートをすることができます。
こうした気づきを「オートクライン」と呼びます。
オートクラインによる気づきは、自分の内側から浮かんできた、いわば「自分の答え」なので納得感のあるものです。そのため、誰かに指示されたものとは違い、主体的に取り組みたいと思える内容になっています。
この効果は、ビジネスの場面やカウンセリング、日常のコミュニケーションでも非常に価値があります。例えば、部下との1on1では、部下のほうから積極的に話をしてくれるようになるなど、目に見える効果が得られます。相手の成長や問題解決を助けることで、より良い関係性を築くことができるのです。
ビジネスシーンにおけるメリット
顧客ニーズを把握する
先入観なく、顧客の望むことを聞き、彼らが必要としていることを理解することが重要です。 これにより、提供する商品やサービスを改善し、より満足度の高い顧客体験を提供できるようになります。
チームビルディング
ビジネスの成功には、従業員が協力し、共同で目標に向かって働くことが重要です。傾聴力を持って同僚の考えや意見を聞くことで、話し手は考えや気持ちを整理することができます。話し手は「この人は自分の話を丁寧に聞いてもらえる」と感じます。そのことにより信頼関係を促進し、生産性や効率性を高めることができます。
問題解決能力の向上
何かビジネスにおいて課題が現れた時、顧客、チームメンバーお互いの理解が一致していることが大切です。認識が異なったまま進むと、問題は大きくなり収集がつかなくなっていきます。
何が起きたのか?
どうしたいのか?
現状どうなっているのか?
先入観なく傾聴をしていくことによって、ビジネスの問題をより深く理解し、解決策を見つけることができます。
傾聴の方法・心構え
傾聴の真髄を掴むためには、ただ相手の話を聞くだけでは不十分です。それよりも、どのような心構えで相手に接するかが鍵となります。
実際、傾聴の技術や方法は、その心構えから生まれるものです。相手の言葉や感情を深く受け止め、真心を込めて理解しようとする姿勢。これが傾聴の基本となります。
【最重要】非言語を捉えることがカギ
傾聴の技術は、言葉だけでなく、相手の「非言語」の部分を捉えることが極めて重要です。非言語とは、身振り、手振り、表情、目の動き、声のトーンなど、言葉以外のコミュニケーション方法(ノンバーバル・コミュニケーション)を指します。これらの非言語的な要素は、相手の真の感情や考えを伝える手がかりとなります。
例えば、言葉では「大丈夫」と答えても、顔色や声の震え、目をそらす動きから、実際には不安や緊張を感じていることが読み取れることがあります。非言語は、言葉以上に本音や感情を伝えています。そのため、これらのサインを敏感に捉えることができると、優れた傾聴力を手にしていると言えるでしょう。
聴く8割の意識
コミュニケーションの中で、私たちは話すことに多くの時間を費やしてしまいがち。そこで、傾聴の場面では「聴く」ことを8割、「話す」ことを2割の意識で行うくらいがオススメです。
聴かなければ相手を理解することはできません。また、相手が自らの気づきや答えを見つける手助けとなります。傾聴者としては、自分の意見や解決策を押し付けるのではなく、相手の話を尊重し、深く聴くことを心がける必要があります。
聴いていることを姿勢で示す
傾聴の技術は、言葉だけでなく、身体を使って相手に伝えることも非常に重要です。実際、私たちのコミュニケーションの大部分は、非言語的なもので成り立っています。
相手の話を真剣に聴いていることを、適切な目の動きや身体の向き、表情で示すことで、相手は自分が理解されていると感じ、より深く自分の気持ちや考えを共有しやすくなります。
もしあなたの話を、相手が携帯やパソコンをいじりながら聞いているとしたら、ちゃんと聞いてくれていないと感じるでしょう。もし、真剣な話をしたいのに、そうした態度であれば、相手への失望を感じることにもつながります。
一方で、しっかりとこちらを見て口を挟むことなくうなづきによって聴いていることを示してくれているとしたら、安心して話すことができるはずです。
常に相手の目を見て話す必要があるわけではありません。しかし、傾聴を意識する場面であれば、どのような姿勢で話を聴いているかも重要なポイントとなります。
相手のために質問する
傾聴は、相手を理解するための行為です。そのためには、相手のために質問をすることです。
日常会話では、相手の話から自分の経験や好みの話を返すこともあります。相手が話したいことではなく、聞き手が興味をもったことを質問することもあるでしょう。普段なら問題ないかもしれませんが、傾聴の場合には、相手への理解を深めることにつながりません。
なので、相手の話したいことや関心のあることを引き出し、深めていくために質問することが大切です。そうすることで、相手は自分の考えや感情をより具体的に言葉にする機会を得ることができ、その結果、自己理解が深まることが期待できます。
質問する際のポイントは、自分の意見や評価を挟まず、相手の話を中心にしたオープンな質問を心がけることです。これにより、相手は自由に自分の考えや感情を表現することができます。
沈黙してもいい。相手の言葉を待つ
傾聴の技術の中で、意外に見落とされがちなのが「沈黙」の力です。
人によっては、沈黙が苦手な方もいるでしょう。しかし、沈黙を恐れないでください。時には、ただ静かに相手の言葉を待つことが、相手の心を開かせる鍵となることもあります。沈黙は、相手に「あなたの言葉を大切に待っています」というメッセージを伝えることができます。
この沈黙の時間は、相手が自分の感情や考えを整理するための大切な時間となることが多いです。そのため、焦らず、無理に会話を進めようとせず、相手のペースを尊重することが大切です。
ただし、自分の考えがまとまらず、話すことに迷って、どう言葉にしていいか分からないでいることもあります。そんなときには、質問や呼び水となるような話をすることで、相手が考えるヒントを与えるとよいでしょう。
傾聴でやってはいけないNG行動
傾聴の目的は、安心感・信頼感を生み出すことです。つまり、これらを妨げる行為は傾聴においてやるべきではありません。いくつかのポイントをお伝えします。
話を途中で遮って、自分が喋る
傾聴の中心は「相手の話を尊重する」ことです。しかし、会話の中で相手の話を途中で遮り、自分の意見や経験を強調する行動は、真の傾聴から遠ざかる要因となります。
このような行動は、相手に「自分の話を理解してもらえていない」と感じさせ、コミュニケーションの障壁を生む可能性が高まります。
相手の話を遮ることは、相手の気持ちや考えを十分に理解するチャンスを逸してしまうだけでなく、信頼関係の構築にも影響を及ぼすことが考えられます。真の傾聴を実践するためには、自分の意見や感情を一時的に横に置き、相手の話に耳を傾けることが不可欠です。
相手を否定する
傾聴の本質は、相手の言葉や感情を受け入れることにあります。相手の意見や感情を否定する行動は、傾聴の精神とは正反対のものと言えるでしょう。
相手を否定することで、相手は自分の意見や感情を開示することが難しくなり、真実のコミュニケーションが妨げられる可能性があります。
相手を否定する行動は、相手の自己表現を抑圧するだけでなく、信頼関係の破壊にもつながることが考えられます。傾聴を実践する上で、相手の意見や感情を尊重し、まずは相手のことを受け入れることが大切です。
相手を説得する、自分の意見を押し通そうとする
相手と意見が合わないとき、自分の考えをぶつけたいときが出てくるでしょう。特に上下関係がハッキリしている場合には、自分の意見を押しつけようとすることもあるかもしれません。そこまで強引ではないとしても、相手を説得しようとしてしまうかもしれません。
しかし、その場の目的が傾聴すること、言い換えると相手を理解することとしているなら、どんなに自分の意見の正しさを確信していても、まずは聴くことに集中することが大事です。
そして、相手がなぜそのような意見を持っているのか、なにを伝えたいのか、大切に思っているのか、より深く理解することが、より良いアイデアを見つける緒になります。
自分に都合の悪い話を聴かない
相手を本当に理解しようと傾聴の場をつくると、ときには自分に都合の悪い話が出てくることもあるでしょう。相手に責められることもあるでしょう。しかし、それを無視したり、怒ったりしては、意味がありません。まず、話を聴くことに集中する。これが大事です。
もし相手が怒っていたとしても、話を聞いてくれていると感じると受け入れてもらっている感覚を得て、落ち着きを取り戻します。わかってくれていると感じると、相手もこちらの話を聴く余裕が生まれてきます。
傾聴はただ聴くだけではなく、聴くことを通じて、相手に影響を与える技術なのです。
傾聴の使い方
究極的には、傾聴はあらゆるコミュニケーションで役立つ技術です。同僚や部下・上司との会話。取引先や営業。あるいは、家族やプライベートでも使えます。人間関係を改善することから、相手の変化を促すことにも有効です。
当協会の講座受講生から頂いた、いくつかの活用事例を紹介します。
部下の不満に、上手に対応できた
部下(年上)の方が、イライラしながら仕事をしていました。
話を聞いてみると私への不満や仕事の効率の悪さなど怒りにまかせながら怒涛の口撃……(前までの私だったら逆ギレしてしまい余計相手をイライラさせてしまっていたと思います。)
学んだ自分の感情(口撃されカッとしてる自分)を認識しながら落ち着き、傾聴を実践してみました。
自分の非を認め、謝りました。(忙しいから対応できないという思い込みもありました……)
すると相手の怒りの感情がしずまり優しい口調に戻りました。
そのあとは私の今思ってる事を伝え、相手の今思ってる事を聴き、改善策がハッキリと明確にできることができました!仕事帰りには『いろいろ言えてスッキリしたありがとう!』と感謝の言葉も受け取れました!!
クレーマーにうまく対応できた
私は現在、市役所の生活保護の部署におります。
昨日、クレーマーと言われる方に対応しました(あとから聞いたらたびたび窓口で問題になる人だったそうです) 。私は担当のケースワーカーではなく、 たまたま昨日は電話で対応でした。
のっけから非常に怒った口調で話されていましたが、 傾聴を意識し、相手の頭の中にあるイメージを共有できるよう、問いかけていきました(最初からブチギレていて何を話しているかわからないので汗、解きほぐすように質問することを意識しました) 。
(担当ケースワーカーの態度が気に食わない、変えろいう主訴)「●●さんは担当を信頼したいんですね」と問いかけました。そうしたら、「そうだ」と。
信頼したい気持ちがあるのだと思い、「明日窓口に来る際、担当が対応するのは大丈夫ですか?」ときくと、「大丈夫」とのこと。「 今日電話の内容は担当に伝えますか」ときくと、「相手を困らせたいわけじゃない」と答え、おだやかに電話を切られました。
コーチングの基本的な態度である、相手を尊重する、理解しようとすることがこれほど支援の場においては重要なんだ、と改めて感じました。そして面倒な客だ、いやだなあ、ではなく何に困っているんだろう、と視点を変えることで自分自身も得るものがありました。
同僚からクレーマー対応すごいですね、と言われましたがそもそもクレーマーと捉えていなかった自分も成長したと思えました。
傾聴力を身につけるには?
傾聴の重要性やその効果を理解したら、次に考えるべきは「どうすれば傾聴力を身につけることができるのか?」ということです。実は、傾聴力は生まれつきのものではなく、訓練や継続的な努力によって磨き上げることができるスキルです。
傾聴のスキルとトレーニング
傾聴の技術は、いくつかのスキルに分解することができます。傾聴という大きな技術を一度に身につけようとするよりも、細かいスキルを少しずつ身につけて磨いていくとよいでしょう。
代表的な傾聴のスキルを紹介します。
キャリブレーション
相手の非言語から心の状態や変化を感じ取ります。ポイントは、相手のちょっとした変化や動きを観察することです。非言語とは、たとえば次のようなものです。
- 姿勢:どんな姿勢を取っているか
- 動作:身体の動き(ジェスチャー)
- 表情:目の動き、まばたき、表情の変化
- 声のトーンや速さ:低い・高い、口調の早い・遅い、喋る間合い
- 呼吸:呼吸の浅い、深い
これらを観察して、相手の状態などを推測することは、誰もが無意識のうちに行っています。
キャリブレーションを磨くには、意図的に観察すること。非言語の変化から、相手の状態を知覚すること。ただし、相手の状態を決めつけないこと。こうしたことを意識してみてください。
バックトラッキング(オウム返し)
相手の言葉を、そのまま繰り返すことで、理解を示します。これにより、相手が自分の言葉がちゃんと伝わっていると感じ、安心することができます。また、自分の言葉を繰り返されることで、相手は自分の気持ちや考えを再確認する機会を持つことができます。
この方法は、相手の話を正確に理解しているかを確認するための手段としても有効です。しかし、単に機械的に繰り返すのではなく、相手の感情やニュアンスを感じ取りながら、適切なタイミングで行うことが重要です。
たとえば、
今朝は、電車の事故があったみたいで、いつも以上に人がぎゅうぎゅうで大変だったよ
ぎゅうぎゅうで大変だったんですね
バックトラッキングではいくつかのパターンがあります。場面や目的に応じて使うパターンは変わるでしょう。
- 相手の言葉(事実)を繰り返すパターン
- 相手の感情を繰り返すパターン
- 相手の話を要約するパターン
相手の話を要約するときには、注意が必要です。要約というよりも、自分の主観で言葉を返してしまうことがあり、相手の気持ちや言いたいこととは違う言葉を返していることがあるからです。
実は、最近転職したんだー
えっ!転職したんだ。大変だったね(なにか前の仕事で辛いことがあったのかな)
(やりたい仕事に就けたんだけどな)
「転職した」という言葉自体を返してはいても、勝手な想像からネガティブな理由での転職と思って言葉も付け加えてしまっています。実際には、やりたい仕事への転職というポジティブな理由なので、すれ違いが生まれてしまいます。
これくらいの会話なら、相手も訂正してくれることもあるでしょう。しかし、コミュニケーションは小さなズレが積み重ねると、「この人はあんまり分かってくれない人だ」という印象を与えたり、問題につながったりすることもあります。
傾聴力を高めるために、自分の主観ではなく、相手がどう思っているのか、どう感じているのかを意識することが大事です。
ミラーリング
相手の行動(ボディーランゲージ)を真似する方法です。
たとえば、相手が飲み物を飲んだら、自分も飲み物を飲む。相手が足を組んだら、自分も組む。動きを合わせることによって、親近感や安心感を持ってもらいます。
ただし、露骨に真似をすると逆に不信感を与えることになりかねません。そこで、ミラーリングの技術を磨くためには、相手の話すスピードや声のトーン、呼吸など、非言語の部分を合わせてみるとよいでしょう。より深く相手とつながる感覚が得られますし、動作を真似するよりは不信感を与えないためオススメです。
セミナー(講座)で学ぶ
上記のようなスキルや、傾聴の方法・心構えでお伝えしたポイントを普段から意識することで、傾聴力を高めていくことができます。しかし、コミュニケーションの技術は、文字情報だけではなかなか感覚がつかみにくいものです。
そのため、実践・ワークを行いながら、傾聴を学び、身につけることができる講座がオススメです。
当協会では、通常の傾聴よりもさらに深く相手のことを理解できる主体的な聞き手となる技術「すごい傾聴力」についてお伝えしている講座があります。少しでも傾聴に興味をもったなら、傾聴力を高めたいと思ったなら、ぜひチェックしてください。
まとめ
傾聴はコーチングにおける基本的なスキルの一つです。そして、あらゆるコミュニケーションにおいて、相手との信頼関係を築き、深めるためにも欠かせない技術となっています。
「話を聴く」というシンプルなスキルではありますが、優れた傾聴を身につけるには、非言語を捉える力や相手と身体の使い方・声のトーンを合わせるなど、繊細な能力を身につけることも欠かせません。
こうした技術は、1on1やコーチング・カウンセリングなどの対話のために設定する時間ではなくても、普段の何気ない会話でも相手の理解を深めて、コミュニケーションを円滑にするのに役立ちます。
FAQ
Q.ビジネスシーン以外ではどのような場面でよく傾聴が使われますか?
傾聴はどのようなコミュニケーションでも使われますが、看護やカウンセリングにおいてよく用いられます。
看護における傾聴
重い病気を抱えた方や長く入院している患者さんなどは、精神的にも参ってしまっていることがあります。病気や将来に対する不安を抱えています。
そのような中では、患者さんに寄り添い、不安を和らげることができる傾聴の技術が役立ちます。
カウンセリングにおける傾聴
元々、傾聴はカウンセリングから発展してきました。悩みを抱えているクライアントの話を聴くことで、クライアントとの間にラポールを築き、安心して話してもらえる関係を築きます。
関係を築くことができたら、クライアントが一歩踏み出し、悩みを解決するヒントを見つけるためにも、話を聴く技術は効果的です。