マイクロストレスとは?日常に潜む危険なストレスとその対策を解説
原因がわからないが、最近心身の不調を感じる。
今まで普通にバリバリ働いていた同僚が、突然休職することになった。
自分のことであれ、他人のことであれ、唐突に心身の不調を訴える人がいるかもしれません。そして、その原因こそマイクロストレスにあるかもしれません。
よくある出来事から生まれるストレスは、その小ささに反して心身にダメージを与えていきます。
この記事では、マイクロストレスがどういうものかをお伝えし、その危険性や対策について解説しています。
マイクロストレスとは?
マイクロストレスは、日常的に経験する自覚できないほど些細なストレスのことです。急な予定変更のメールが届いた、少しだけイラッとすることを言われたといった、それほど気にもとめないような出来事によるストレスです。
ストレスには、大きいストレスと小さいストレスがあります。
大きいストレスというのは、事故や重たい病気、災害、離別などのことです。これらが大きなストレスを与え、生活や自分自身に影響を持つことは容易に想像できるでしょう。
一方で、小さいストレスはその出来事が起きたことすら忘れてしまうようなものです。しかし、マイクロストレスも積もり重なることによって、脳機能を阻害する原因になるなど問題を引き起こします。
ロブ・クロス博士による調査
『The Microstress Effect』の著者であるロブ・クロス博士は、2019年から21年にかけてグローバル企業30社の計300人にインタビューを行いました。すると、ハイパフォーマーの多くがストレスを抱え込んでいるのに、ほとんどの人がその状態を自覚していなかったのです。
また、調査していると、今までのストレスの考え方では説明がつかない問題を抱えた人がいることにも気づきました。今までの考え方というのは、「借金の支払いに困っている」「パワハラ上司に悩まされている」といったわかりやすい大きなストレスがダメージを与えているというものです。
つまり、押しつぶされそうな大きな一つの重圧的な状況がストレスを与えているという考え方です。
しかし、博士は調査によって、むしろ日常的に起こる些細な出来事や不快感が、人々の精神や健康を蝕んでいることを発見しました。
これがマイクロストレスです。
マイクロストレスの特徴
- 問題として捉えるほどのストレスとは感じにくい
- 日常的に起こりうることで、すぐに忘れてしまうようなもの
- たいていはその場限りのものなので、簡単に対処できそうに見える
- ちょっとした出来事なので、一瞬ネガティブな気持ちになるが、引きずるわけではない
マイクロストレスの具体例
- 仕事の遅い同僚の手伝いをよくさせられる
- プロジェクトの仕様が急に変更になる
- 終わり間際に、急ぎの仕事を頼まれる
- トラブル対応で昼食を取ることができなかった
- 隣の席の同僚がいつも愚痴ばかり言ってくる
- 道が渋滞している
- パソコンの起動や動作が遅い
マイクロストレスの分類
ロブ・クロス博士はマイクロストレスを3つのカテゴリーに分類しています。
能力を消耗させるストレス要因(Capacity-Draining Stressors)
これらのストレス要因は通常、仕事や私生活の外的側面に起因する。例えば、仕事量の突然の増加、絶え間ない割り込み、同僚との責任の不一致などである。
- 部下や同僚の問い合わせで、自分の仕事が進められない
- 顧客からのクレーム
- 急な仕事の依頼
- 深夜や休日に仕事に関するメールが届く
- 同僚や部下が決めたことをやっていない
感情をすり減らすストレス要因(Emotion-Depleting Stressors)
平和、不屈の精神、レジリエンスといった内的なエネルギーの源泉を乱すものは、特にダメージを与える。このようなストレッサーには、対立的な会話、ストレスを感じている同僚のエネルギー、信頼できない同僚などがある。
- 対立的な会話
- ネガティブな発言ばかりする人
- あいさつをしない
- イライラさせられて信頼できない同僚
- 政治的な駆け引き
アイデンティティを揺るがすストレス要因(Identity-Challenging Stressors)
自己意識や価値観に疑問を投げかけるもの。自分はなりたい自分ではない」という不快な感覚を引き起こし、やる気や目的意識を削いでしまう。この種のストレスは、目標を追求するようプレッシャーをかけられたり、自己価値を低下させるような否定的な交流があったり、ネットワークを破壊されたりしたときに生じます。
- 自分の価値観と合わない目標を追い求める
- 家族や友人との、消耗するような、あるいは否定的な交流
- 自分や自分の価値観を否定するようなもの
- 望まない身内や知人との関係
- 人とのつながりが途切れる
なぜマイクロストレスは問題なのか?
マイクロストレスの一つ一つは、意識することもないほど、ありふれていて些細な出来事です。そのため、当たり前のこととして受け入れるようになっていることがほとんどです。
しかし、マイクロストレスが積もっていくと、肉体的・精神的に問題が起こるような深刻なダメージを受けることもあります。
たとえば、今までは優秀で真面目に働いてきたビジネスマンが急にベッドから起き上がれなくなった、といった話を聞いたことがあるかもしれません。あるいは、通勤の電車に乗れなかったり、仕事中や帰宅後になにもないのに涙が出てきたり、といった話を聞いたことがあるかもしれません。
本人はなにもないのに急に動けなくなったり涙が出てきたりしたことに困惑するかもしれませんが、実際には小さなストレスが気づかない内に溜まっていて、耐えきれなくなったのです。
また、マイクロストレスの多くは同僚や家族など身近な人によって引き起こされることも、対処の難しい要因です。
特定の人物、たとえばパワハラまがいの上司や威圧的な取引先などが問題であれば、その人との関係がなくなるか少なくなればストレスのたまる状況は改善されるでしょう。
しかし、身近な人物との付き合いは、簡単になくせるものではありません。そのため、繰り返しマイクロストレスを与える出来事が発生し、ストレスが蓄積することになります。
マイクロストレスには「ストレス対策」がうまく機能しない
どうやらマイクロストレスに対して、私たちが持っている「ストレス対策メカニズム」がうまく機能しないようです。
通常、大きなストレスがかかると「闘争逃走反応」という仕組みによって、怒りによって状況に立ち向かったり、その場から立ち去ることによってストレスを切り抜けようとします。
しかし、マイクロストレスは小さい出来事なので、脳はストレスがかかっていることに気づかないようなのです。それにも関わらず、マイクロストレスは通常のストレスと同じように血圧や心拍の上昇、ストレスホルモンの増加などを引き起こします。
ニューヨーク大学のジョエル・サリナス博士いわく、
マイクロストレス要因は体に悪影響を及ぼすものの、脳は大きなストレス源として十分に認識してはいない。そのため、もっとわかりやすいストレスを感じた場合に稼働する高位の保護メカニズムが、マイクロストレスを受けても稼働しないのだ。
ワーキングメモリが低下すると、自分の精神が疲れ切っている理由を忘れてしまう。そのため、マイクロストレスは人間の防御反応をすり抜けるため、通常のストレスよりも大きなダメージを与えることがある。
波が岩を削ったり雨水が石に穴を開けたりするように、小さな小さなストレスの蓄積が、気づいたときには大きなダメージを与えている。
これがマイクロストレスの危険性と恐ろしさです。
マイクロストレスは高血圧や糖尿病も引き起こす?!
慶應義塾大学 満倉靖恵教授は次のように言います。
ストレスを感じると、脳の中心にある感情の処理に関わる扁桃体(へんとうたい)に信号が届き、ここから2つの経路が存在する。1つは、脳幹に伝わり、セロトニンの分泌が減ることでイライラや仕事への意欲低下などの精神的な症状につながるという経路。そして、もう1つは、脳下垂体にストレスが伝わることでその原因と戦うためにコルチゾールというホルモンの分泌を増加させ、血圧、心拍数などが増え、それによって最終的に高血圧や、糖尿病につながるという経路。これらを引き起こす根源は、マイクロストレスが原因とされている。
『カズレーザーと学ぶ。』今回のテーマは『ストレス』
燃え尽き症候群に陥る可能性
マイクロストレスが蓄積すると、疲れや辛さは感じないものの、脳の作業記憶が縮小してしまうそうです。そのため、うまく考えられなかったり、言葉を間違えやすくなるといったことが起きます。
ストレスを抱えていると、次のような傾向があります。
- 質の低い意思決定をしがち
- モチベーションの低下
- 生産性の低下
うまく考えることができないので集中力や生産性が低下します。そうした状況でも頑張り続けていると、気づかない内に燃え尽き症候群になって動けなくなってしまう可能性があります。
研究者の中には、能力が高いのに燃え尽きている人が多く見られたという人もいます。一生懸命に頑張っている人ほど、マイクロストレスを抱えやすい状態にあるのかもしれません。
マイクロストレスを溜め込みやすい人の傾向
マイクロストレスを溜め込みやすい人は、責任感があり、優等生なタイプが多いようです。心配をかけまい、評価を下げたくないといった思いから「大丈夫」と答える人も非常に多いようです。
- 責任感が強い
- 適応力が高い
- 「大丈夫」とよく答える
- あまり休まない
- 積極的に期待に応えようとする
オーバーワーク気味で、自分の立場や居場所を守るために、休むことを避けたり、できないと思われないように頑張りすぎたりする傾向があるようです。
マイクロストレス要因
ロブ・クロス博士は、マイクロストレスの要因を3つのカテゴリーと14の発生源を特定しています。
1度発生しただけで大きく問題になるわけではありませんが、繰り返し発生することにより、そのストレスはどんどん蓄積されていきます。
マイクロストレスの14の発生源
能力を消耗させるストレス要因
1.一緒に働く相手との間で、認識や役割、優先事項にズレが生じている
目的や価値観が違っていたり、やることがハッキリしていないストレスです。
顧客へのサービスを最優先に考えているのに、上司はコスト削減を第一に考えていると、意見は対立することになります。こうしたズレを解消しないままでは、ストレスは溜まる一方です。
2.何度も会う他者が信頼できるかどうかについて確信が持てない
一回しか会わないなら、その場をやり過ごせばストレスはなくなります。
しかし、同僚や得意先の担当者など繰り返し会う相手が、約束を守らなかったり話をコロコロ変えたりすればストレスとなります。
3.権限を持っている人の行動に関して、予測できない
自分の仕事やプライベートに影響を与える人の考えがコロコロ変わるパターンです。
仕事であれば上司が昨日決めたことを翌日に変更する。プライベートであれば、パートナーの意見がコロコロ変わるなどです。
4.過大かつ多岐にわたるコラボレーションが求められている
いろんな人と大量にやり取りすることや、連絡、メッセージが届くような状況です。対面や電話、オンライン会議だけでなく、メールやチャットも含めたあらゆるメッセージを大量に対応しないといけない状態です。
5.職場、また家庭における責任が大幅に増えている
上司や担当者が病気になり、代わりに自分が対応しないといけないなど、責任や役割がどんどん押し寄せて対応できなくなっている状況です。
プライベートであれば、家族が倒れて面倒を見ないといけない状況なども当てはまります。
感情をすり減らすストレス要因
6.他者の成功やウェルビーイングを管理し、それらに責任があると感じている
メンバーの仕事をサポートして成果を出さなければいけない状況や、家族や親戚などの面倒を見ないといけない状況です。
他人の成功や健康に対して、責任を負わないといけないと感じている状況です。
7.衝突を招きそうな会話
言い争いや険悪なムードになりそうな会話は、それだけでストレスになります。こちらの話をなかなか聞いてくれなかったり、注意しないといけなかったりするシーンはストレスに感じます。
8.人間関係における信頼の欠如
よく知らない人と仕事をしないといけない、手を抜きがちな同僚と作業しないといけないなど、気が休まらない関係です。
9.ストレスをまき散らす人々
ネガティブなことばかり言う人やいつも批判ばかりする人、常にイライラしていて人に当たり散らかすような人がいるだけでストレスになります。
10.政治的な駆け引き
社内政治によって気配りを超えた余分な根回しが必要だったり、いろんな人に気を使わなければいけなかったりするといった状況です。
アイデンティティを揺るがすストレス要因
11.個人的な価値観にそぐわない目標を追求しなければならないというプレッシャー
たとえば、顧客に喜んでもらえることに喜びを感じているのに、売上のために必要ないものまでセールスしないといけない状況などです。
12.自信、自己価値、自制心のゆらぎ
トラブルやミスが続いたりして、自分を信頼できなくなるパターンです。実際の能力の問題というよりは、「自分はダメだ」と感じてしまう状態です。
13.神経がすり減るような険悪な家族・友人関係
家族や親戚、友人などと関係が悪いパターンです。特に関係が悪いのに、コミュニケーションを取り続けないといけない状況ではストレスが溜まりやすいでしょう。
14.人間関係の崩壊
親しい友人たちと離れることになったり、連絡が取れなくなったりする状況です。
燃え尽き症候群の原因との類似
上記のマイクロストレスの原因は、燃え尽き症候群の原因として知られる要素とも関連しています。
たとえば、次のような要素です。
- 手に負えない仕事量(あまりにも多くの仕事を抱え、日々水中でもがきながら、いつ沈んでもおかしくない感覚がある)
- 評価不足(肯定的なフィードバックがなく、感謝の言葉を聞くことが滅多にない)
- リーダーや同僚からのサポートの欠如(職場への帰属意識がなく、仕事上の人間関係やチームに対する信頼が薄い)
- 不公平感(えこひいき、恣意的な意思決定)
- 価値観の断絶(仕事で大切だと思うことが職場の価値観と一致しない)
- 自律性の欠如(自分の仕事に関するタスクをいつ、どのように実行するかの選択権がほとんどない)
マイクロストレスを軽減する方法
マイクロストレスを特定して生活から排除する
可能ならマイクロストレスの原因を生活から排除できると、マイクロストレスによるダメージを減らすことができます。
マイクロストレスはありふれた出来事すぎて、「当たり前のこと」として捉えられていることも多いです。しかし、よく振り返ってみることで、マイクロストレスに気づき対処できる可能性があります。
そのためには、マイクロストレスの14の発生源を参考にして、ストレスの原因となっている要素を見つけて対処するとよいでしょう。
- マイクロストレスの要素をできるだけ書き出す
- 特に対処すべき要素を2つ~3つほどに絞る
- 絞りこんだ要素に対して、明日からすぐに取り組めるファーストステップを書き出す
たとえば、自分への連絡が多すぎるなら決まった時間にしか返信しない(もしくは特定の時間は返信しない)とルールを決めたり、急な依頼に対して断るようにしたりします。
あるいは、メールやチャットの通知機能をオフにするといったシステム的な対処ができることもあるでしょう。
できるなら原因から距離を置いたり、関わりをなくしたりできるのがベストと言えますが、それが難しいときには対処方法を事前に決めておくことで、負担を減らすことが可能です。
自分が他人に与えているマイクロストレスに気づく
他人の振る舞いがマイクロストレスとなるように、自分の言動も身近な人にとってマイクロストレスを与えている可能性は多いにあります。
自分が他人にストレスを与えていると、それはブーメランのように返ってくるでしょう。
たとえば、よくイライラしながら仕事しているとしたら、同僚や部下にストレスを与えていることになります。その結果、報告や相談、共有などのコミュニケーションが少なくなるかもしれません。他人から冷たい態度を取られることもあるかもしれません。それが余計にイライラにつながるでしょう。
元の原因が普段の振る舞いにあると気づき改善できたなら、自分のストレスも減らすことができます。
つまり、自分が他人に与えているだろうマイクロストレスを軽減できれば、他者も自分も助けることができるのです。
広い視野を持ち、ストレスを受け流す
ロブ・クロス博士は、「マイクロストレスの影響を受けるのは、単に気づいていないから」と言っています。なので、マイクロストレスを客観的に捉えて、受け流す手段を身につければ、その悪影響は減るとしています。
私たちの調査では、生活で感じるマイクロストレスを客観的にとらえられる人たちが、最も幸せであることがわかっている。
10年20年の時間軸で考えてみると、大抵の悩みごとはそれほど重要ではないことに気がつくはずです。10年どころか、1年や数ヶ月で忘れてしまうようなことも多いでしょう。
自己管理を行う:異変や不調を認識する
マイクロストレスは気づきにくいことに特徴があります。
実際にはひどいストレスを抱えているのに、気づかず働き続けているハイパフォーマーが多いという調査結果もありましたね。
だからこそ、なにかしら不調や異変を感じたときには、見過ごさずに「なにかおかしいかもしれない」と疑ってみることです。
精神的な不調で休職する人の中には、「以前から調子がおかしいことに気づいていたが、これくらいでは休めないと思った」という具合に見て見ぬ振りをしている方も少なくないようです。
早い内に対処できれば少しの休息や、マイクロストレスに対処するだけで済むかもしれません。しかし、心身の調子を崩して休職するしてしまうと、復帰するのに時間がかかり、そのこと自体もストレスとなるでしょう。
だからこそ、普段から意識しておくことが大切です。
複数のグループ(コミュニティ)に所属する
マイクロストレスに強い人は、複数のコミュニティに所属する傾向があったそうです。一方で、マイクロストレスに弱い人は、職場と家を往復するだけの生活になりがちだったそう。
複数のコミュニティに所属することで、次のようなメリットがあります。
- 会社以外の視点や考え方に触れることができる
- いろんな体験をすることで、メンタルがリフレッシュされる
- 相対的に仕事とアイデンティティの結びつきが弱くなり、仕事でイヤなことがあっても余裕を持てる
- いまの職場以外の違う可能性を考えられる
- 自然な会話や本音で話せる人間関係を得やすい
信頼できる人や共通の趣味や関心のある人たちとの会話が、良い影響を与えてくれるようです。
まとめ
マイクロストレスはありふれていて些細な出来事なので、その影響に気づきにくい。しかし、通常のストレスと同じように心身に悪影響を与えているので、知らない内にダメージが蓄積していきます。
そのため、マイクロストレスに気づき、対処していくことが大切です。
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