プロコーチが教える「怒らない人になる」2つのトレーニング方法

アンガーマネジメントには、怒りを鎮める簡単なテクニックがいくつもあります。

しかし、6秒ルールや深呼吸といった方法は、あくまでも対処療法に過ぎません。イライラするのをテクニックで対処できても、またすぐにイライラするのでは疲れてしまいます。

だからこそ、あまり怒らない自分、あまりイライラしない自分になることをオススメしたいです。

この記事では、コーチングや心理学的なアプローチによって、怒らない人になっていく方法をお伝えしています。

目次

1.コーチング的アプローチ=自分を知る

自分が怒りが湧いてくることに対して、まったく怒らない人がいます。一方で、自分はまったくイライラしないことに対して、ストレスを感じてイライラする人がいます。この違いは、どこから来るのでしょうか?

怒りの感情が湧いてくる流れは、どんな人も共通しています。ただし、人それぞれ違った価値観やビリーフを持っています。この価値観やビリーフの違いが、人によって怒りやストレスを感じる理由の違いを生み出しています

そのため、価値観やビリーフといった自分の内面を理解することが、怒らない自分をつくる助けになります。また、怒らないようになるだけではなく、より望ましい自分となっていくことにも役立ちます。

価値観
一言で表すと、心から大切にしていること。ほとんどの人は無自覚ではあるが、この価値観に従って物事を判断している。価値観として強く持っているものほど、自然と優先順位が高くなる。

ビリーフ(信念、思い込み、固定観念)
一言で表すと、心から信じていること。能動的に信じるというよりは、「そういうものだと思っている」「これは常識」「こうするのが当たり前」「~すべき」などといった、無意識の内に刷り込まれてきた考えを指す。

怒りのメカニズムを知る

怒りなどの感情は、出来事そのものから引き起こされるわけではありません。出来事が価値観やビリーフを通じて、「意味づけ」がなされます。この意味づけによって、感情が湧いてくるのです。

価値観やビリーフは、色つきのメガネに例えられることがよくあります。サングラスであれば暗く見えますし、赤色のメガネであればモノも赤っぽく見える。価値観というメガネを通じて、出来事を見ているのです。

出来事から価値観・ビリーフのフィルターを通じて、感情が生まれる

私たちは出来事そのものをコントロールすることはできません。しかし、意味づけを変えていくことは可能です。意味づけを変えることで、怒らない自分を実現していくことができます。

怒りを通じて、自分の価値観を知る

価値観やビリーフから感情が起こるということは、怒りの裏にはあなたの価値観やビリーフが隠れていることを意味しています。つまり、怒りや様々な感情から自分の価値観を知ることができるのです。

価値観やビリーフは、あなたの感情パターンを生み出しているものです。そのため、価値観やビリーフを知ることは、感情をコントロールすることに役立ちます。

感情から価値観・信念を探る3ステップ

STEP
感情的になった出来事を記録する

今日(今週、最近)、感情的になった出来事を書き出します。
できるだけ具体的に書くことで、より理解を深めやすくなります。

例)後輩が砕けた口調で話してきてイライラした。他の先輩にも同じ調子で、見るだけでイラッとする!!

STEP
書き出した出来事で感情的になるのは、なぜなのかを考える

感情が動いた裏には、価値観やビリーフが隠れています。感情的になった理由はなんでしょうか?

考えるヒントになる質問をいくつか紹介します。

  • 「~すべき」「~であるはず」といった考え方をしていないか?
  • どんなことを大切にしているから、感情的になったのか?
  • 感情的になったのは、守るべき「常識」や「当たり前」があるからではないか?それはなにか?
  • 「~しなければいけない」「~してはいけない」と思っていることはないか?

こうした質問に答えることで、自分が持っている価値観やビリーフを見つけていきます。

例)目上の人には、敬語で話さないといけない。仲が良くても、節度を守るべきだ

STEP
価値観・ビリーフを元に、何を大切にしたいのかを考える

ステップ2によって、なぜ怒りを感じるのかわかってきました。この後詳しくお伝えしますが、「感情を言語化する」だけでも、ストレスは軽減されることがわかっています。感情的になる理由がわかってきたことで、感情的になる度合いは小さくなっていくでしょう。

その上で、見えてきた価値観やビリーフをどうしていきたいかを考えてみるとよいでしょう。
価値観やビリーフに従い続けないといけないわけではありません。そのままでもいいし、変えていってもいい。特にビリーフは、あなたを守ることもあれば、トラブルに発展するきっかけにもなります。

次のように考えることは、どうしていきたいかを考えるのに役立ちます。

  • (ステップ2で考えた)ビリーフを持っていることで、なにを得られるのか、守られるのか、どんなメリットがあるのか?
  • (ステップ2で考えた)ビリーフを持っていることで、なにを失う可能性があるのか、どんなデメリットがあるのか?

例)先輩に敬語を使うことで、嫌われたり怒鳴られたりしなくて済む。仲のいい関係を築いていきたい。そう考えると、必ずしも敬語じゃないといけないことはないかもしれない。TPOや相手との関係は考えた方がいいけど、砕けた会話で仲良くなることもあるな。そう思うと、イライラさせられていた後輩は、いろんな人と仲良くやっているな

価値観・ビリーフは、人生に大きな影響を与えています。
しかし、考えてみてもなかなか明確にならないこともあります。一人で考えていると、盲点になって気づけないことがあるからです。

こうした場合には、ビジネスキャリアの豊富な優れたコーチによる、コーチングを受けることがオススメです。体験コーチングを提供しているので、自分の価値観やビリーフを理解して、人生や自分を変えていきたい方は案内をご覧になってください。

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2.感情を言葉にする力を磨く

自分の感情や感覚を言葉にできる人はストレスに強く、感情コントロールに長けています。一方で、感情コントロールが苦手な人は、感情を言葉にするのも苦手な傾向にあります。

様々な研究によって、感情の言語化と感情コントロールやストレス耐性、健康などとの関連がわかってきています。その中でも、インパクトの強い研究を一つ紹介します。

感情を言語化する効果を示した実験

カルフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者の研究チームによる実験です。「クモ恐怖症」の被験者を集めて、クモに慣れる治療(クモへの不安やストレスを解消する治療)を行いました。この治療中に、感情を言語化する(感情のラベリング)効果を調べることにしました。

具体的には「疑似体験治療法」と呼ばれる、不安対象(クモ)に少しずつ慣れていく方法を行いました。
クモに関する映像を見ることからはじまり、離れたところからガラス容器越しにクモを見る。少しずつ距離をガラス容器に入ったクモとの縮める。ガラス容器のフタを自分で開ける。手の上を這わせる。

この治療の結果、被験者は実験の4~6週間後には大量のクモが這う車でも運転できるようになったそうです。

そして、感情を言語化する効果を調べる実験として、被験者を3つのグループに分けました。

  • グループ1:クモが無害であることを説明されたグループ(楽観的思考)
  • グループ2:クモへの関心をそらす質問をされたグループ(経験の回避)
  • グループ3:今感じている気持ちを言語化したグループ(感情のラベリング)

グループ3の被験者は、「クモの毛が気持ち悪い」「噛みつかれるかもしれないから怖い」と不安に感じたことを言語化しました。その結果、不安感が低下したことがわかりました。一方で、グループ1やグループ2の被験者は、不安感が悪化したそうです。

楽観的に考えたり、気持ちをそらすような方法は、自分に対しても他人に対しても使われる方法だと思います。実は、こうした方法が逆に不安を増加させるのに対して、ネガティブな感情を素直に言語化する方が不安が軽くなることがわかったのです。

なぜ感情の言語化で不安が軽くなるのか?脳科学から考える

感じていることを言語化することで、「扁桃体」の活性を抑えられるようです。扁桃体は恐怖心や不安などの感情を感じたときに活動します。

偏桃体
情動・感情の処理(好悪、快不快を起こす)、直観力、恐怖、記憶形成、痛み、ストレス反応、特に不安や緊張、恐怖反応において重要な役割も担う
脳における「危険アラーム機能」とも呼ばれる

感情を言葉にすることで、脳への負担が軽減されるようです。ネガティブな感情や嫌な感覚がどういうものかを把握することができるので、アラームが解除されるのでしょう。そのため、不安やストレスが軽くなるわけです。

一方で、感情をうまく言葉にできないと、嫌な感覚の正体が掴めず、脳が警戒し続けている状態になるわけです。そのため、ストレスが溜まっていく一方になってしまう。人によっては、身体的な不調・症状が現れることもあるようです。

感情を言語化する能力を育てる

感情を表す選択肢を用意しておく

感情を言語化するのが大事だと知っても、それが苦手な方もいると思います。そうした方に、まずオススメしたいのが、あらかじめ感情を表す言葉の選択肢を用意しておくことです。

信州大学の『信州心理臨床紀要』に掲載された論文(R)によると、自分で言葉を考えなくても、選択肢から感情を表す言葉を選んでもストレス軽減の効果があったとしています。

たとえば、「心配(している)」「プレッシャー(を感じている)」「恥ずかしい」「戸惑い」「理不尽さ(を感じている)」「腹が立つ」「信用できない」などの言葉を、すぐに見られるような場所に記録しておくことです。
もし表現が出てこない場合には、感情表現のサイトや辞書などを見てみるとよいでしょう。

「日本語表現インフォ」の「恐怖・不安の表現・描写」のページ
恐怖・不安の表現・描写 | 日本語表現インフォ

感情の粒度を上げる

感情の粒度というのは、感情をより詳細に表現できているかの度合いです。選択肢によって選ぶ言葉は、一般的な表現にとどまります。しかし、実際には同じ感情だとしても、細かな違いがあるものです。

たとえば、楽しさを表現する言葉は

楽しい、うれしい、面白い(笑える)、爽快、上機嫌

などがあります。さらに、同じ「楽しい」だとしても友人と遊ぶ「楽しさ」と一人で趣味に没頭する「楽しさ」は違うものだと感じているかもしれません。「最高に楽しい!」と興奮状態なこともあれば、知らない街や自然の中を散歩しているときのような「心地よい」感覚に近い楽しさもあるでしょう。

怒りに関しても同様です。
上司から作成した資料の批判的なフィードバックをもらった場合に、イライラするかもしれません。このときに「言い方がムカつく」のか「自分の能力不足を感じたことへの怒り」なのか「嫌いな上司だから何を言われてもムカつく」のか、感情を言葉にできれば行動やフィードバックの受け取り方も変わってきます。

感情の粒度が高くなることで、より鮮明に自分の感情を知ることができます。その感情にフィットする選択をすることもできるでしょう。

一方で、粒度の粗い(粒度の低い)人は、自分の感情をあいまいにしか捉えられないので、モヤモヤし続けたり「なんか違うんだよな」と思う判断をしてしまいがちです。

【体験談】楽しくても晴れないモヤモヤ感

大学生の頃、一時期大学に行くのが嫌になっていた私は、ずっとモヤモヤした気持ちを抱えていました。それがなにか分からず、「スッキリしたい」「楽しくしたい」と授業にほとんど出ることなく、友だちと遊んでばかりいました。もちろん、友だちと遊ぶこと自体は楽しいのですが、同時に「なんか違う」というモヤモヤは晴れずにいました。

当時は言葉にできていませんでしたが、このモヤモヤ感は「自分がやると決めたことをやっていない」ところから来ていたのだと思います。だから、いくら遊んでもモヤモヤが晴れるわけではなかったんですね。

感情の粒度を上げる方法

◆ボキャブラリーを増やす

感情の粒度を上げるシンプルな方法は、感情表現のボキャブラリーを増やすことです。小説を読む、外国語を学ぶなど、新しい言葉や表現に出会うことで言葉(語彙)を増やすのに役立ちます。

特に外国語には、その言葉特有の表現があります。日本語に直訳することはできないけれど、感覚は理解できる言葉があるものです。たとえば、タガログ語には「キリグ」という言葉があるそうです。その意味は、

おなかの中に蝶が舞っている気分。
たいていロマンチックなことや、すてきなことが起きたときに感じる

日本語にはうまく翻訳できない、世界の「ロマンチック」な言葉6選

たしかに、そうしたシーンで感じる感覚は、幸せ、幸運、ハッピー、ラッキーといったどの言葉とも意味合いが微妙に異なる感じがありますね。様々な言葉やそれが表す意味を知ることは、自分の感情や感覚を鮮明に知ることを助けてくれます。

◆似た表現の違いを考える

「イライラする」と「ストレスが溜まっている」とでは、微妙に感覚が異なるかもしれません。自分にとって、その言葉が表しているものは、どういう状況や何に対してなにかを考えてみるとよいでしょう。「がっかりする」と「失望する」では、その度合いが違うと私は感じています。

ちょっとした違いかもしれませんが、自分の感情をより詳細に把握するのに役立ちます。

感情の言語化が苦手なタイプかを調べる

感情を言葉にするのが苦手な性格特性を「失感情症(アレキシサイミア)」と呼びます。感情がないのではなく、「自分の感情を表現する言葉を見つけるのが難しい」という特徴を持っています。アレキシサイミアには複数のパターンがあり、代表的な3つが

  • 感情の特定(判別)が苦手:自分の感情がどこから来ているのかわからないタイプ
  • 感情の説明が苦手:感情をうまく表現できないタイプ
  • 考えるのが苦手:自分の感情を考えるよりも、とりあえず行動するタイプ

複数のタイプが組み合わさって、自分の感情を言葉にするのが苦手なのだとされています。

アレキシサイミアの傾向を調べる

アレキシサイミアの尺度を調べるのに役立つテスト「TAS-20(トロント・アレキシサイミア尺度)」があります。20の質問に「1(ほぼ当てはまらない)〜5(かなり当てはまる)」で回答していきます。

  1. 自分がどのような感情を抱いているのか、よくわからなくなる。
  2. 自分の気持ちを表す適切な言葉を見つけるのは難しい。
  3. 私は医者でも理解できないような身体的な感覚を経験することがある。  
  4. 私は自分の気持ちを簡単に表現することができる。★
  5. 問題を説明するだけでなく、分析することが好きだ。★
  6. 動揺していると、自分が悲しんでいるのか、怖がっているのか、怒っているのかわからない。
  7. 自分の体の感覚に戸惑うことが多い。
  8. なぜこのような結果になったのかを理解するよりも、物事が起こるままにしておく方が好きだ。
  9. 自分でもよくわからない感情がある。
  10. 感情をコントロールすることは重要だと思う。★
  11. 人に対する自分の気持ちを表現するのは難しいと思う。
  12. 人は私に自分の感情をもっと表現するように言う。
  13. 自分の中で何が起こっているのかわからない。
  14. 自分がなぜ怒っているのか分からないことが多い。
  15. 人と話すときは、感情よりも日々の活動について話したい。
  16. 心理的なドラマよりも、”軽い “娯楽番組を見る方が好きだ。
  17. たとえ親しい友人であっても、自分の心の奥底にある感情を明かすことは難しい。
  18. コミュニケーション中に沈黙があっても、相手の感情を身近に感じることができる。★
  19. 自分の感情を掘り下げることは、個人的な問題を解決するのに役立つと思う。★
  20. 私は映画や演劇に隠された意味を探そうとする。
感情を言葉にできる人は健康でメンタルが強い!を自己診断する20問

採点が終わったら、★マークの点数は反転させます(5点なら1点として扱う)。そして、全体の平均値を出します。

1項目あたりの平均は約2.3。
平均値が2.5を超えていたら、もう少し感情を言葉にすることを心がけることを勧められています。

各パターンごとに採点する場合は、次の通りです。

  • 感情の特定が苦手:質問1、3、6、7、9、13、14の平均を出す
  • 感情の説明が苦手:質問2、4、11、12、17の平均を出す
  • そもそも考えるのが苦手:質問5、8、10、15、16、18、19、20の平均を出す

サイエンスジャーナリストの鈴木祐さんは次のように述べています。

このテストについては、平均値をどうこう考えるよりも、「自分の弱点を把握するためのチェックリスト」として使うのがいいかもしれません

感情を言葉にできる人は健康でメンタルが強い!を自己診断する20問

点数が高かった質問(★マーク付きは、点数が低かった質問)が、感情を言葉にする上での弱点と言えるでしょう。この点を意識することで、改善につながります。

結論:感情や感覚を言葉にすることが、怒らない自分を形作る!

怒らない人になるには、自分をより深く理解することが効果的です。

記事では、2つのアプローチを紹介しました。

  • 価値観やビリーフなどの、自分の内面を知る
  • 感情を言葉で表現する

一瞬で変化が起きるような方法ではありませんが、こうした取り組みを続けていくことで、より望ましい自分になっていくことができます。

怒りが湧いてきた瞬間に使えるテクニックやアンガーマネジメントについて知りたい場合には、こちらの記事をご覧になってください!

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