ピープルマネジメントとは?従来のマネジメントとの違いやメリット・注意点を解説

従業員が会社に求めることが数年前とは大きく変化している現代の日本において、マネジメントの内容を見直す企業が増えています。人的資本経営が注目されている中で、それに適したマネジメントの方法が「ピープルマネジメント」です。

この記事では、

  • ピープルマネジメントとはどういうことか?
  • これまでのマネジメントとどう違うのか?
  • ピープルマネジメントのメリットは?
  • ピープルマネジメントを成功させるポイントは?

こうしたことについて解説しています。

会社でのマネジメントを成功させて優秀な人材の確保や流出の抑制、従業員の満足度アップなどをしたいという方はぜひ最後まで読んでみてください。

目次

ピープルマネジメントとは?

ピープルマネジメントとは、メンバー一人ひとりと向き合い、メンバーの成功を支援するマネジメント手法です。

会社の利益や目標達成率などの数字よりも、従業員一人ひとりのパフォーマンス向上、キャリア形成、プライベートの両立といったことを重視します。それにより、エンゲージメントやモチベーションの向上が見込め、その結果として企業の利益や成果にも大きなメリットがあります。

マネージャー(リーダー・管理職)は、メンバー一人ひとりと対話し、向き合うことで、成功を促す役割を担います。

これまでの考え方は、会社が主。ピープルマネジメントでは人が主となる

従来のマネジメントとピープルマネジメントの違い

 従来のマネジメントとピープルマネジメントには大きな違いがあります。 

従来のマネジメントは、「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資源を管理してきました。その一つとして、人材管理を行っています。従業員のスキルや経験などを数値化して管理し、どれだけの成果を会社にもたらしたのかを重視してきました。数値を一元管理するマネジメント形式を採用している企業が多く、従業員を管理するマネージャーも従業員を数字で管理や評価をすることが一般的でした。

ピープルマネジメントは、従業員一人ひとりの成長や成功を目指しています。従業員によって、パフォーマンスの発揮の仕方や望む働き方などは異なります。そのため、マネージャーはメンバーとの対話などを通じて、寄り添っていくことが大事になっていきます。コーチングのような伴走型のマネジメント方法と言えます。

これまでピープルマネジメント
会社
人の扱い経営資源として管理人的資本として扱う
手法数値管理、成果を重視メンバーのエンゲージメント・モチベーションの向上
マネージャーの役割管理・評価メンバーと向き合う、能力・意欲を高めるサポート

ピープルマネジメントが重要視されている理由・背景

ピープルマネジメントが重要視されるようになった理由を表すものとして、人的資本経営への注目を挙げることができます。

「人的資本」に明確な定義はありませんが、内閣官房による資料より引用します。

「人的資本」とは、人材が、教育や研修、日々の業務等を通じて自己の能力や経験、意欲を向上・蓄積することで付加価 値創造に資する存在であり、事業環境の変化、経営戦略の転換にともない内外から登用・確保するものであることなど、価値 を創造する源泉である「資本」としての性質を有することに着目した表現である。

出典:内閣官房 非財務情報可視化研究会 PDF「人的資本可視化指針

これまでは、人材は資源として捉えられてきました。資源とは、コストとして消費するもの。つまり、少ない消費で効率的に成果を出すことが望ましいわけです。

一方で、人的資本経営では、人材は資本とされています。つまり、「価値を生み出す存在」です。従業員一人ひとりの能力を伸ばし活用することで、企業の価値を創出することにつながります。また、企業価値・利益だけではなく、従業員自身の人生の充実度を高めることにもつながります。

さらに具体的な時代背景として、次のことが挙げられます。

  • 転職や独立が急増しているから
  • 人材不足が深刻化しているから
  • 会社に求めることが変化したから

それぞれの理由について、以下で詳しく解説します。

転職や独立が急増しているから

ピープルマネジメントが重要視されている理由の一つが、転職や独立を前提とした人材が急増しているからです。

数年前までは企業に就職したら定年まで仕事をし続ける「終身雇用」が一般的でしたが、働き方が改革されている現代の日本では、終身雇用は当たり前の考え方ではなく、就職してから数年後には転職してキャリアアップをする考え方や、会社でビジネススキルを身に付けてから独立するという考え方も一般化してきています。

このような理由から、企業のマネジメントが従業員ファーストではなく、会社の利益だけを追い求めるマネジメントを採用してしまうと、優れた人材が会社を見限って辞めることにつながりかねません。

そのため、給与や職場環境といった待遇以外にも、エンゲージメント(会社への愛着・貢献精神)の向上などの人生における充実度を高めることも求められるようになってきています。会社としては従業員一人ひとりのスキル形成やキャリアアップができる環境を提供するなど、働く人の成功をサポートすることが重要になってきています。

人材不足が深刻化しているから 

現代の日本は少子高齢化が非常に深刻な問題としても挙げられている通り、若手の働き手が減少傾向にあるため、会社が人を選ぶのではなく、従業員側が会社を選ぶことが増えてきました。転職が一般化してきたこともあり、定着率の低さ(離職率の高さ)に悩む企業も少なくありません。

そのため、各業界では優秀な人材を獲得するためにさまざまな施策を打ち出しており、その中のひとつがピープルマネジメントなのです。

個人の成功を後押しし、働きやすい環境を構築するなど、人材獲得と定着率の向上を期待することができます。

3.会社に求めることが変化したから

時代が変化するとともに、従業員が会社に求めることが変化していることはもちろん、人によって考え方が大きく異なる多様性を持つようになったため、従業員一人ひとりと向き合うことのできるピープルマネジメントを導入する企業が増えているのです。

今までは会社に「良い給与」や「優れた福利厚生」などを求める従業員が多い傾向にありましたが、現代の日本では給与や福利厚生以外にも「ワークライフバランス」や「スキルアップ」、「独立支援」、「やりがい」など、人によって求めるものが多様化しています。

そのため、会社としても画一的なマネジメントでは満足してもらうことができないため、多様化に合わせて従業員一人ひとりの声に耳を傾ける必要があるのです。

マネージャーが、大きな役割を果たしている

これまでは、マネージャーは数値や成果などの管理者といった立場にあり、強いリーダーシップが求められる人と考えられてきました。ピープルマネジメントは、メンバー一人ひとりと向き合うことを重視した手法であるため、より個人との関わりを密接にし、能力やモチベーションを引き出すことがカギになってきます。

つまり、マネージャーやリーダーといった立場にある人が大きな役割を果たすことになります。これを支持するいくつかの研究結果をお伝えします。

マネージャーやチームリーダーだけで、チームエンゲージメントの不一致の70%を占める

One of Gallup’s biggest discoveries: the manager or team leader alone accounts for 70% of the variance in team engagement.

What Is Employee Engagement and How Do You Improve It?

ハーバード・ビジネス・レビューによる「最も影響力のある従業員エンゲージメント促進要因」の調査結果を見ると、

  • 成果を認められること
  • 仕事がどう貢献しているかを理解する
  • 会社の戦略を理解している
  • 個人目標と会社目標のつながり
  • 適切な評価

こうしたマネージャーの働きによってエンゲージメントを高めることができると言えます。

出典:The Impact of Employee Engagement on Performance

一度中間管理職を廃止したGoogleが、再び中間管理職を置くようになったことなども踏まえると、マネージャーやリーダーは経営において欠かすことのできない存在だと言えます。

ピープルマネジメントを導入するメリット

部下との信頼関係を築くことができる

ピープルマネジメントでは、従業員一人ひとりの特徴を理解し評価するために、上司・マネージャーと部下・メンバーが1対1でのコミュニケーションを行う機会が増えるため、信頼関係を築きやすい環境になります

ピープルマネジメントで部下と信頼を築く代表的なタイミングは、従業員のパフォーマンスを向上させるために上司と部下が1対1で話し合いを行う「1on1」と呼ばれる面談で、従来のマネジメントで行われることの多かった評価面談では話せないような内容についても話すようになりました。

このように、ピープルマネジメントでは従業員と接する機会が増え、マネージャーと伴走して目標設定や評価、フィードバックなどを行うことができるため、上司と部下の関係が良好になりやすいのです。

メンバーの成長や成功を実感しやすくなる

メンバーと向き合うことで、一人ひとりの成長や成果を実感しやすくなります。単に数字だけで評価していたのでは、なかなか成長を実感することはできないでしょう。

メンバーの成長を実感することは、マネージャーとしての力量や貢献を実感することにもつながります。管理と捉えていると、「できていないこと」に目を向けてしまいがちですが、成長・成功に関わっていくことを意識することで、メンバーのよりポジティブな面に気づくことができるでしょう。

ピープルマネジメントは、部下の立場にある人だけではなく、マネージャーの意欲を高めることにもつながります。

従業員のエンゲージメント向上

ピープルマネジメントでは、従来のマネジメントのように上司からの指示や命令をもとにして仕事に取り組むのではなく、自主性・自立性が重視されているため、従業員のモチベーションを高く維持することができます。

もちろん、”仕事を好きなように進めていい”というわけではなく、マネージャーとの面談の中で従業員一人ひとりの強みや特徴を理解したうえで最大限能力を発揮できるようにする必要があります。

また、従業員の仕事に対して頻繁にフィードバックをする機会を作ることで、従業員のスキルアップとともに能動的に従業員が働ける環境を作ることができるのです。

こうした取り組みによって、モチベーションやエンゲージメントを高めることが期待できます。 

従業員の主体性が発揮されやすくなる

ピープルマネジメントによって、メンバー一人ひとりが自分の役割を理解し、求める成果に向かいやすくなります。

1on1やコーチングなどの関わり方が増えることになるため、メンバーは与えられた業務をこなすだけではなく、自分で考え、行動するようになっていきます。

従業員が自らの価値観や考え方をより深く理解するのを助けることで、主体性を発揮し、パフォーマンスを向上させることができるでしょう。

優秀な人材の流出を防ぐことができる

ピープルマネジメントを導入することで従業員の満足度が向上し、優秀な人材が転職や独立などせずに会社で長く働いてもらうことができます。

転職や独立などが一般的になっている現代において、優秀な人材ほどステップアップ転職や独立を行動に移していきますが、会社にいることで多くのメリットを感じてもらうことができれば、転職や独立せずに会社に留まろうと考えてもらうことも可能です。

そのためには、従業員一人ひとりと向き合うことのできるピープルマネジメントが役立ちます。

ピープルマネジメントを導入するときの注意点

ピープルマネジメントを導入する際の注意点は以下の通りです。

ピープルマネジメントについての理解を深める

先ほどもお伝えした通り、従来のマネジメントとピープルマネジメントの内容は大きく異なるため、導入するにあたってピープルマネジメントについての理解を深める必要があります。

単にコミュニケーション機会を増やすだけ、1on1を行うようにするだけでは、形式的なものになり、マネージャーにとっても部下にとっても時間を奪われるだけになってしまいます。無駄な施策を避け効果的なマネジメントを行うために、マネージャーに対して社内研修を行うことや、場合によって社外研修に参加することも視野に入れるといいでしょう。

部下と向き合う時間を確保する

ピープルマネジメントの導入にあたって、部下と向き合う時間を確保することは重要なポイントです。

ピープルマネジメントには「1on1」をはじめとした面談形式の時間が必要になるため、部下の人数に応じてスケジュールを組み直す必要があります。

マネージャーの業務が忙しくて部下と向き合う時間を作ることができなかったり、向き合う時間が少ないと、そもそもピープルマネジメントが成立しなくなってしまうため、注意が必要です。

ピープルマネジメントのポイント

マネジメントの量=頻度を増やす

年に一回や数回の面談やフィードバックの機会では、メンバー一人ひとりと向き合って個性や変化に気づくことは、非常に困難です。そこで、ポイントの一つとなるのが、マネジメントの量、頻度を増やすことです。

1on1の導入がその代表例です。定期的なコミュニケーションの機会を増やすことで、メンバーのことをよく知り、能力やモチベーションを引き出す機会をつくっていきます。

他にも、普段からコミュニケーションの機会を取るなど、会社に合ったやり方でマネジメントの量を増やすとよいでしょう。

マネジメントの質を高める

1on1などの機会を増やしたとしても、意味あるミーティングでなければ、効果はありません。マネジメント施策として1o1を導入したものの、マネージャーは「なにを話していいか分からない」、部下は「1on1なんて意味ない」と感じる時間になっていては、逆効果になってしまいます。

そこで、質を高めるいくつかのポイントをお伝えします。

傾聴を行う

傾聴とは、コーチングやカウンセリングで使われる聴くスキルです。

1on1の主な目的は、部下の成長を助けることにあります。そのためには、一方的に上司が話すのではなく、部下を理解することが重要です。理解するためには、意識的に聴くことが欠かせません。単に話だけではなく、相手の心の動きも捉える「傾聴」のスキルが役に立ちます。

しっかりと話を聴いてもらえると感じると、思ったことや感じたことを素直に話してくれるようにもなります。

メンバー主体の目標を理解する

会社の目標から、個人のノルマや数値目標を算出しても、モチベーションにつながりにくいものです。会社の目標を達成しようとするだけではなく、メンバーが主体的に自分の目標を立てることが大切です。

目標設定の効果的なフレームワークは様々なものがあります。代表的なフレームワークの一つが「SMART」です。

SMARTゴール

S:Specific(具体的)
M:Measurable(計測できる)
A:Achievable(達成可能)
R:Relevant(自分ごとになっている)
T:Time bound(期限が決まっている)

効果的な目標であれば、「目標を達成したい!」と意欲が高まり、具体的な行動を決めることに役立ちます。しかし、ノルマや与えられた目標に従うだけであったり、すぐに忘れてしまう漠然とした目標しか立てられなかったりと、ほとんどの人は効果的な目標を立てることができていません。

目標設定やその後のフィードバックによって、メンバーの成功を支援することができるでしょう。

ピープルマネジメントに役立つスキル

傾聴や目標設定、フィードバックなど、ピープルマネジメントはメンバー一人ひとりとのコミュニケーションが欠かせません。こうしたスキルを包括的に扱っているのが、GHCDコーチングです。GHCDコーチングでは、「理解」からはじめることで潜在的な能力やモチベーションを引き出すことができます。

質問・傾聴・目標設定といった個別のスキルを学ぶだけでは、それらを統合して自分の力として発揮することは難しいです。GHCDコーチングは、誰に対しても効果的な本質的な内容でありながら、現場経験に基づいた、仕事で使える実践的なコーチングです。

リーダーである自分の人生の成功や幸福を実現するとともに、メンバー一人ひとりの能力やモチベーションを引き出す力が身につきます。

詳しくは、こちらの講座でお伝えしています。

まとめ

本記事では、ピープルマネジメントと従来のマネジメントとの違いや重要視されている背景、導入するメリット・注意点などについて詳しく解説しました。

転職や独立の流れが広がっていき、価値観や働き方の多様化などによって、これまで通りのマネジメントでは適応できないことが増えてきました。人材不足に悩む企業も多くあります。そのような時代の中で、既存社員の能力やモチベーションを高めると同時に、優れた人材が集まる魅力的な会社をつくっていく上で、ピープルマネジメントは価値ある取り組みとなるでしょう。

ピープルマネジメントを実践する上で重要な、コミュニケーションの方法として、コーチングスキルが役立ちます。

コーチングについては下記の記事を参考にしてください。

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